2013年6月5日、Haswellの登場とCOMPUTEX TAIPEIの話題に沸く自作市場の傍らで、Richlandこと「AMD 2013 Elite A-Series APU」が、しめやかに発売となりました。

 そこから遡ること5日前の5月31日、私はAMDからの招待を受けて、東京は丸の内にある日本AMD株式会社の本社にいたのでございます。


AMDからの招待状


 日本AMDからの招待というのは、過去に行われたAMD主催の「ブロガー向け勉強会」参加者を対象として行われる、「AMD 2013 Elite A-Series APU(Richland)」に関するブロガー向け勉強会への招待でした。

 私は第一回目のブロガー向け勉強会に参加していたのですが、書いた記事があの体たらくだったので、「優れたレビューを書いた方」を招待するというこのイベントに、何故自分が招待されたのか解らず、「これはもしかして罠?Trinityの殻割り記事の報復に、のこのこやってきた所をアンブッシュ…」などと妄想力を働かせ、勝手に震えあがってみたりしておりました。

 まぁ、結局、時間的に何とか都合がついたことと、Richlandについては大体察しがついているとは言え、やはり気になるものは気になるということで、参加することと相成った次第です。




デスクトップ向けRichland「AMD 2013 Elite A-Series APU」


 今回の勉強会ではまず、CPUを大きく上回る勢いで向上してきたGPUの演算性能について紹介され、その演算性能をグラフィックの描画に留まらず利用しようという業界全体の流れであることが説明されました。

 つまり、CPUとGPUを統合したAMDのAPUは、業界全体の新しい流れにマッチする製品であるということですね。これ自体はLlano頃から言われてきたことでもありますが、業界にGPUの演算性能を利用するという流れが浸透してきたことは、AMDの目論見通りといったところでしょうか。

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 さて、勉強会のテーマとなった、Richlandこと「AMD 2013 Elite A-Series APU」については、既に発売&情報解禁となったので、各PCショップやメディアの情報でラインナップについてはご存知かと思われますが、一応表をつくってみました。



















































モデル名 CPU
(クロック/キャッシュ)
GPU
(クロック/コア数)
対応メモリ TDP
A10-6800K 2モジュール4コア
(4.1〜4.4GHz/4MB)
Radeon HD 8670D
(844MHz/384基)
DDR3-2133 100W
A10-6700 2モジュール4コア
(3.7〜4.3GHz/4MB)
Radeon HD 8670D
(844MHz/384基)
DDR3-1866 65W
A8-6600K 2モジュール4コア
(3.9〜4.2GHz/4MB)
Radeon HD 8570D
(800MHz/256基)
DDR3-1866 100W
A8-6500 2モジュール4コア
(3.5〜4.1GHz/4MB)
Radeon HD 8570D
(800MHz/256基)
DDR3-1866 65W
A6-6400K 1モジュール2コア
(3.9〜4.1GHz/2MB)
Radeon HD 8470D
(800MHz/192基)
DDR3-1866 65W


 今回の勉強会では、主に最上位モデルとなる「A10-6800K」について紹介が多かったのですが、Richlandの特徴についての説明の中で、個人的に特に印象的だったものは以下の通りです。

・最高779GFLOPsの演算性能…Core i7-3970X(336GFLOPs)の2倍以上!
・DDR3-2133メモリのサポート…A10-6800Kのみ
・Socket FM2の採用

 上に挙げた中でも、『Intel Core i7-3970X Extreme Edition』の2倍以上に達すると謳う、779GFLOPsの演算性能と言うのは強烈ですね。この数値はA10-6800KのCPUとGPUの演算能力を足したものだそうで、GPUリソースをフル活用できるようになれば、APUの演算性能はIntelのコンシューマ向けCPUすら上回るというアピールですね。

 あのAdobeがPhotoshop CS6の「Mercury Graphics Engine」において、CUDAからOpenCLのサポートに切り替えた事例などを交え、OpenCLの普及が順調に進んでいることをPRした上での紹介だったのですが、現状、CPUとGPUの演算能力を同列に扱って良いほど普及しているとは言い難く、面白いアピールではあるのですが、流石にちょっと無理のある比較だなーと思ってしまいました。

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 Richlandでは、DDR3-2133動作を正式にサポートしたことも謳われています。以前、私が行ったメモリクロックとAPUのグラフィックス性能の関係を探る検証で紹介したようなグラフが提示され、ハイクロックメモリと組み合わせることで、APUのグラフィックス性能が向上することをアピールしていました。

 ラインナップ的に、DDR3-2133に対応するのは、最上位のA10-6800Kのみとなっているところを見ると、案外メモリコントローラの耐性的にDDR3-2133での動作が厳しい個体が多いのかと邪推してしまいますが、DDR3-2133でも結構なパフォーマンスアップが見込めるので、最上位モデルだけとはいえ、正式に対応したことは間違いなく前進と言えるかと思います。

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 RichlandのSocket FM2対応は、モバイル向けRichlandが発表された際「RichlandはTrinityと同じシリコンダイを採用した製品」であることが分かっていたので、対応して当然と言えば当然なのですが、今回の勉強会の中で、「Socket FM1については申し訳なかったが、Socket FM2はこれからも続いてく」的な説明がありました。

 なお、RichlandのSocket FM2対応については、マザーボードのBIOS更新が必須になるケースがあるとのことで、その場合はTrinityでBIOSをアップデートしてからRichlandを搭載する必要があるとのことでした。いざ買ってからRichlandが動かないというのでは困ってしまうので、購入する際は事前にRichland対応状況を確認してからマザーボードを選んだ方が良いでしょう。

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AMDのQ&A


 スライドを使ってRichlandを紹介した後、質疑応答の時間が設けられました。ここだけの話という答えもあったので、全部を紹介できるわけではありませんが、印象に残ったものをいくつか紹介します。

【Q】ジェスチャや顔認識のアプリケーションは提供される?
【A】Richland発売と同時での無償提供は見送り


 Richlandでは、顔認識でのログインやジェスチャでの操作が実現可能であるとされているのですが、Richlandの発売時点で、それらの機能を実現するアプリケーションが無償提供されることは無いようです。今後、何らかの形で提供する予定ではあるようですが、各機能のライセンス的な問題もあり、それが無償なのか有償なのか、いつ頃提供されるのかなどは決まっていないようでした。
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【Q】Richlandの価格は円安の影響を受けるのか?
【A】円安は価格設定にあまり影響はありません。


 曰く、AMDとして日本向けに発売するRichlandの価格については、数か月前に設定しており、とくに円安の影響を受けている訳ではないそうです。もっとも、代理店やショップを介して販売することになるため、最終的な価格については、それらの影響を受けるとのことでした。

 …という話でしたが、発売となった『A10-6800K』の17,000円超という価格設定を見ると、円安の影響はやっぱり受けてるんじゃないかなーと思ってしまいますね。



【Q】45W版のデスクトップ向けRichlandは登場する?
【Q】RichlandベースのFireProは登場する?

【A】言えません…。


 6月5日に発売解禁となったRichlandは、TDP 100WまたはTDP 65Wのモデルのみとなっており、一段下のTDP枠となるTDP 45Wの製品は存在しません。また、Trinityではワークステーション向け製品として、FireProブランドを冠したAPUが発売されましたが、RichlandベースのFireProについても未発表でした。

 これらの製品が今後登場する可能性については、勉強会時点では「言えない」とのことだったので、ちょっと期待が持てる印象はありますね。



【Q】RichlandのTIMはグリス?
【A】どうでしょう?仮にグリスだとしても、十分にテストを行っているので品質的な問題はありません。


 昨年、AMDが秋葉原で行ったイベントにおいて、TrinityベースのAPUがヒートスプレッダとコアの間のTIMにグリスを使っていることが公開され話題になりましたね。私もそれ関連で一つ記事を書かせてもらっているのですが、Richlandでも引き続きグリス仕様なのかは明らかにされませんでした。

 もともと、イベントでの殻割りについても、日本AMDに事前説明なく本社のゲストが行ったサプライズだったそうです。AMDとしては、TIMにグリスを使用する場合でも、厳格にテストを行い、問題が無いことを確認したうえで製品化しているため、グリスだからと言って不具合が起こることは無いと強調されていました。




RichlandはTrinityのブラッシュアップモデル


 この度登場したデスクトップ向けRichlandについては、Trinityのブラッシュアップモデルと言った感じですね。Trinityと同じシリコンダイを利用しながらも、CPUやGPUの動作クロックを高められているため、パフォーマンスとしてはTrinityベースの製品より優れていることは確かでしょう。最上位の『A10-6800K』の定格クロックが4.0GHzを超えたことは、なかなか感慨深いところであります。

 ただ、RichlandベースのAPUが発売され、価格が明らかになった6月5日以降、従来のTrinityベースAPUとの間に存在する価格差が大きく、マイナーチェンジ程度にとどまる進化具合のRichlandは、コストパフォーマンス的に厳しい印象が否めませんね。

 しばらくは、TrinityベースAPUと価格面で比較されることになるRichlandですが、絶対的な性能では確実に進歩しているのですから、ビデオカードの増設が不可能な小型ケースを利用した自作などでは、よりリッチな選択肢にとなり得るかと思います。それだけに、現状は3社程度しか供給メーカーの存在しないSocket FM2対応Mini-ITXマザーボードの選択肢が増えることに期待したいところです。

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 なお、今回のイベントでは参加者全員に、デスクトップ向けRichland最上位モデル『A10-6800K」と、ASUS製のSocket FM2対応マザーボード『F2A85-M PRO』が配布されました。これを使って自作PCを作ることを強いられている…という課題を頂戴しているので、自作がてら色々試してみたいと思います。