「Ultra 120 Extreme シリーズ」の後継製品にして、Thermalrightの新たなフラッグシップモデルである『Venomous X』の冷却性能検証第一弾です。今回は、LGA 775環境での検証結果をご紹介します。

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◆ 検証条件と比較対象について

 今回の検証は、「CPU Cooler Test Regulation for LGA 775」で定めた独自の条件に基づき、CPUクーラーの冷却性能を比較したものです。

ハイエンドCPUクーラーメーカーThermalrightのフラッグシップモデルである『Venomous X』との比較には、旧モデルの『TRue Black 120』をはじめ、PROLIMA TECH『Megahalems』やNoctua『NH-D14』といったハイエンドCPUクーラーを用意した他、コストパフォーマンスに優れたScythe『夜叉』と比較を行いました。

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▲ Thermalright『Venomous X』

TRue Black 120 夜叉
▲ 左:Thermalright『TRue Black 120』 右:Scythe『夜叉』

Megahalems Noctua『NH-D14』
▲ 左:PROLIMA TECH『Megahalems』 右:Noctua『NH-D14』



◆ 冷却性能検証・その1 〜 定格動作時 〜

 まず、『Core 2 Extreme QX9650』を定格の3.0GHzで動作させて行った冷却性能検証の結果を紹介します。

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 冷却性能に大きな期待の掛る『Venomous X』なのですが…。CPU温度に関しては、シングルファン・デュアルファンとも比較製品の中では高い温度となっています。旧モデルの『TRue Black 120』との比較でも、「KAZE-JYUNI 1200rpm」のシングルファン構成時に1℃低い温度を記録している以外は、全て同等以下の結果となっています。

比較的発熱量の少ないこの条件に関しては、ハイエンドCPUクーラーからコストパフォーマンス重視型まで温度差が付きづらい傾向にあるのですが、ハイエンドCPUクーラーである『Venomous X』が、コストパフォーマンス重視モデルの『夜叉』より低い温度を一つも記録出来ていないというのは…ちょっとショックですね。


 周辺冷却性能に関しては、特筆すべき点の無いごく普通なサイドフロー型CPUクーラーレベルの結果と言えます。強いて特徴を挙げるとすれば、放熱フィン削減によるフィンピッチ拡張により風の抜けが良くなったためか、低速ファンと組み合わせた時のチップセット温度が、『TRue Black 120』よりも高めになっています。

他のCPUクーラーに比べ、デュアルファン化による周辺冷却性能の向上もあまり期待できないので、大幅なオーバークロックを施して安定動作を狙うのであれば、なんらかの対策を講じた方が良いかも知れません。




◆ 冷却性能検証・その2 〜 オーバークロック動作時 〜

 続いて、『Core 2 Extreme QX9650』を4.0GHz@1.575Vにオーバークロックして行った検証の結果を紹介します。

 ある程度の冷却性能を持ったCPUクーラー同士の比較では、温度差があまりつかない条件だった定格動作時とは違い、オーバークロックと昇圧により発熱量が大幅に増加したこの条件では、CPUクーラーの冷却能力が温度差に現れやすくなっています。定格時は振るわなかった『Venomous X』も、この条件ならコストパフォーマンス重視モデルの『夜叉』を逆転するハズなのですが…。

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 今回の検証の結果、順当に『夜叉』との差を広げた他のハイエンドCPUクーラーとは対照的に、『Venomous X』は『夜叉』との差を広げるどころか、「KAZE-JYUNI 1900rpm」との組み合わせではシングルファン・デュアルファンとも1℃差で『夜叉』の後塵を拝しています。

「ULTRA KAZE 3000rpm」との組み合わせでは『夜叉』と互角の結果となっているものの、旧モデルである『TRue Black 120』に3℃、トップの『Megahalems』には4〜5℃もの差を付けられる始末です。「ULTRA KAZE 3000rpm」を2基搭載した『Venomous X』が記録した64℃という温度が、「KAZE-JYUNI 1900rpm」を1基のみ搭載した『Megahalems』や『NH-D14』の記録と同じ温度であることを考えると、『Venomous X』をハイエンドCPUクーラー呼ぶことに疑問符がつきます。


 前回レビューしたScythe『夜叉』は、CPU冷却性能こそ『MUGEN∞2』と同程度でしたが、周辺冷却性能が改善されており、ややインパクトが弱いものの後継モデルと呼べるだけの性能は持っていたと思います。しかし、今回の『Venomous X』に関しては、CPU冷却性能で旧製品の『TRue Black 120』に劣っているうえ、周辺冷却性能に関しても優位性が無い、むしろチップセット冷却に関しては劣っているといってもいい結果です。

CPU冷却性能を重視しているサイドフロー型CPUクーラーにとって、周辺冷却性能はさほど重要視されるものではありませんが、『TRue Black 120』を含む「Ultra 120 Extreme シリーズ」の後継製品である以上、周辺冷却性能だけでも改善されていて欲しかったのですが…。




◆ まとめ 〜 なるほど、これは確かに毒を吐きたくなるCPUクーラーだ 〜

 流石に信じがたい検証結果だったため、『TRue Black 120』のリテンションを使って取り付けての再検証や、『Megahalems』を再検証して検証環境の不具合が無いか確認しましたが、結果は変わらずでした。周辺冷却性能が優れている訳でもなく、この程度のCPU冷却能力しか持たない製品がThermalrightのフラッグシップモデル、さらにはあの「Ultra 120 Extreme シリーズ」の後継製品などとは到底信じられませんね。大きな期待を背負った製品だっただけに、この結果に対する落胆も大きいです。

 海外のレビューサイトでは、非常に優秀なパフォーマンスを記録している『Venomous X』ですが、私のほかに実際に購入して検証された鎌わろすさん雪華綺晶さんも、同様に他のハイエンドCPUクーラーに及ばない結果となっています。もしこれが不具合なのだとしたら、単なる初期不良というレベルでは無い可能性が高いですね。

まさか、海外の大手レビューサイトが検証したのはThermalrightが量産前に試作生産品したサンプル品で、実際に量産され市販されている製品は質が落ちているとでも言うのでしょうか? CPUクーラーなどという簡単に比較検証が出来てしまう製品について、粉飾したレビューを書いたり書かせたりするほど愚かなことはしないと思うので、それぐらいしか思いつかないですね…。


 今回の結果が『Venomous X』本来の性能なのだとしたら、全くもって期待外れで購入するメリットは特にありませんね。価格が下がってきている『TRue Black 120 Rev.C』の方がよほど良いでしょう。もしこれが不具合なのだとしたら、かなりの確率で不具合品が存在している可能性が高いので『Venomous X』の購入はしばらく様子を見た方が良いでしょう。

……何とも残念な結果です。




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