2009年を締めくくる最後の記事として、今夏非常に大きな注目を集めたCPUクーラー『T-Shooter』の最終検証結果を紹介する。『T-Shooter』は、ベストサーマルが企画し、不二ライトメタルが製造した製品で、自作PC関連の製品としては珍しい"純日本製"の製品だ。

DPP_0093


◆ 公式カスタマイズ方法「ローダウン化」の効果を検証

 外観などの特徴は、発売直後に掲載した記事で紹介しているので、そちらをご覧いただきたい。今回の記事で紹介したいのは、前回の性能検証以降、開発元のベストサーマルがT-Shooterの製品サイトに掲載した「カスタマイズ方法」についてだ。

2009年12月31日現在、T-Shooterの製品ページには以下の2点が、性能向上を図るためのカスタマイズ方法として掲載されている。(詳細はこちら→「T-SHOOTERカスタマイズ」)

 .ファンの取り付け方向を「吸い出し」から「吹き付け」に変更。
 .ローダウン化。(※:ファンアダプタダクトを深く差し込む。)


 ,亡悗靴討蓮以前掲載した性能比較記事で、CPU・周辺パーツともに温度が低下することを確認できている。よって、今回はカスタマイズ方法 その2として公開されているローダウン化を中心に検証を行う。




◆ 「ローダウン化」によるメリット

 T-Shooterの公式サイトでは、「ローダウン化」を行うことで以下のようなメリットがあるとしている。

.(ファン方向)吸い上げで -3℃ 、吹き付け設置なら"さらに" -3℃ CPU温度が低下する。
.全高が170mmから140mmになるため、ミドルタワーケースにも余裕で収まる。
.ケースエアフローにも効果がある。

 CPU冷却性能が向上するうえ、非常に背の高いCPUクーラーだった『T-Shooter』の全高が小さくなるというのであれば、「ローダウン化」は良いことづくめだ。実際に「ローダウン化」すると、以下の写真のようになる。

DPP_0090
▲ TRue Black 120を挟んで左が標準、右が「ローダウン化」後


 『T-Shooter』の「ローダウン化」は、ちょっとした道具さえあれば非常に簡単に実行できる。ファンアダプタダクトの内側にある位置固定用のストッパー(4箇所)を切り飛ばすか削り落し、ヒートシンク下部の吸気口に被らない程度まで差し込む。 必要な作業はこれだけ。ニッパーを持っていれば、ほんの数分で「ローダウン化」が完了する。

DPP_0092
▲ ファンアダプタダクト内のストッパー

DPP_0091
▲ ストッパー切除後


 実に簡単に行えるT-Shooterのローダウン化。これほど手軽に欠点を補い、性能向上を図れるカスタマイズが存在するのなら、やらない理由はないだろう。

 続いては、その「ローダウン化」による性能向上がいか程のものなのか、検証してみたいと思う。




◆ CPU Cooler Test Regulation for LGA 775に基づいて検証

 「ローダウン化」による性能向上を評価するため、LGA 775プラットフォームでのCPUクーラーの性能比較条件を定めた「CPU Cooler Test Regulation for LGA 775」に基づき、冷却性能比較検証を行った。

 なお、今回の比較検証には、比較対象としてNoctua『NH-D14』と『GRAND KAMA CROSS』の2製品を用意した。『T-Shooter』と価格帯が一致しない製品との比較だが、高いながらも最高峰の冷却性能と完成度を誇る製品と、コストパフォーマンスに優れた低価格製品との比較なので、『T-Shooter』はその中間の価格帯に存在する製品として参考にしてみてほしい。




◆ TDP 130WのCore 2 Extreme QX9650定格時の検証

 下記のグラフは、『Core 2 Extreme QX9650』を定格設定で動作させて検証した際の結果をまとめたものだ。
 なお、グラフ内で『T-Shooter・改』と表記しているものが、「ローダウン化」を施した『T-Shooter』のデータとなっている。また、(吸)や(吹)とは、『T-Shooter』に取り付けたファンの方向を示しており、(吸)はヒートシンク側から吸気、(吹)はヒートシンク側へ吹き付けであるという意味だ。

CPU
Chip MEM3 MEM4


 結論から言ってしまえば、上記のグラフから「ローダウン化」によってCPU温度が低下したというデータは読み取れない。風量の大きい標準ファン(2000rpm)や「KAZE-JYUNI 1900rpm」搭載時に、吹き付けと吸い上げによる差を確認することはできるが、公式で謳われている「CPU温度 -3℃」というデータは確認できなかった。

また、TDP 130WのCPUを定格動作させている状態にも関わらず、比較的低速なファンを取り付け場合、CPU温度が93〜94℃付近で頭打ちになってしまっており、吹き付けと吸い上げによる性能差すら確認できない状態だ。

 散々なCPU冷却能力と比較すると、本体下部に"吸気口"があることもあり、周辺冷却性能に関してはサイドフロー型の『NH-D14』を上回る結果を残している。また、ファンを吸い上げ方向に設置するのが『T-Shooter』本来の使い方だが、吹き付け方向でファンを取り付け、本体下部の"吸気口"を"排気口"として利用することで、周辺冷却性能が向上するようだ。

もっとも、『NH-D14』を上回った周辺冷却性能だが、同じく周辺冷却を考慮して設計された『GRAND KAMA CROSS』の方が、より低い温度を記録している。『T-Shooter』の周辺冷却性能は比較的優秀だが、トップフロー型CPUクーラーなどと比べても極めて優秀…とは言い難い。




◆ 搭載ファンを5000rpmのXINRUILIAN RGH1238B [50NMB]に換装

 標準ファンや「CPU Cooler Test Regulation for LGA 775」で定めたファンとの組み合わせでは、TDP 130Wの『Core 2 Extreme QX9650』を冷却しきれていないのが明らかな結果だったため、以前の検証でも利用した超高速ファン『XINRUILIAN RGH1238B [50NMB]』を取り付けた際の検証を追加で行った。

 参考までに、「S-FLEX 800rpm」を取り付けた『GRAND KAMA CROSS』データを合わせてグラフ化している。

5000rpm


 「ローダウン化」の有無に関わらず、明らかに吹き付け時の方がCPU・周辺パーツともに低い温度を記録しているのは確認できる。しかし、「ローダウン化」による性能向上はまったく数値に表れていない。

 残念ながら、今回の検証では「ローダウン化」による性能向上を確認することはできなかった。もしかすると、検証環境がバラック組だから効果が出なかったのかもしれないが、エアフロー抜きでCPUクーラー単体の能力を図るというのが、この検証の趣旨だ。つまり、「ローダウン化」によってCPUクーラー自体の冷却性能は向上していない、という結論になる。

 一体どのような条件で検証した場合に、-3℃という結果が出たのかは知らないが、元々170mmと非常に高い全高なので、一般的なケースに『T-Shooter』を収めた場合、側面板とのクリアランスはほとんど無い場合が多いだろう。もしそういう環境で検証したのであれば、「ローダウン化」によって側面板との間に出来たスキマにより、ファンの吸排気の障害が無くなった事で、CPU温度が低下する可能性はありそうだ。

CPUクーラー本体の性能が向上する訳ではないが、低下する訳でもない。ケースとの干渉やエアフロー的には「ローダウン化」の効果は確かにあるようなので、すでに『T-Shooter』を持っているのであれば、試してみても良いだろう。




◆ 所感

 今年も様々なCPUクーラーが発売されたが、その中でも『T-Shooter』はなかなかの注目を集めた製品だったと思う。

 それまでのCPUクーラーには無かった奇抜な形状に、「熱力学と流体力学を融合させた新機構のCPUクーラー」「カルマン渦による効率的な熱交換」と言ったうたい文句。さらに、CPUクーラー一製品のために専用サイトとSNSまで用意する力の入れ様をみて、高性能・高効率を謳ってはいても、見た目的に冷えるとは思えないと思いつつも気になる製品だったのではないだろうか。

発売直後に不具合のため全品回収という非常に良くないスタートを切ったものの、よくある「仕様」の一言で片づけずに全品回収した点については、個人的に高く評価していた。

 しかし、その結果再販されたものがこれだ。ハイエンドCPUクーラーの価格帯に位置する6,980円という価格で発売されたにも関わらず、対応を謳うLGA 1366環境ではスタンダードなTDPである、130Wクラスの製品すら冷やしきれない冷却能力。ケースとの干渉が問題になる事の多い、大型サイドフロー型CPUクーラーにも存在しない170mmという全高。自作PC向けCPUクーラー製品でありながら、自作PCはおろか競合他社のCPUクーラーすらリサーチしていないとしか思えない製品づくり。これを目の当たりにして感じた落胆は非常に大きなものだった。


 だが、それ以上に深く失望させられたのは、メーカーの主張だ。代表的なものにちょっとツッコミを入れさせて頂きたい。

 代表的なものを挙げると、発売当初、「ファンの吸い上げ用に設計されているため、ファンを吹き付けで使用すると性能が著しく低下する。」(PDF)としていたにも関わらず、カスタマイズ方法 その1としてファンを吹き付けで使用する事が紹介されている。後日、FAQも場合によっては吹き付けの方が性能が向上すると書き換えられ、ファンの吹き付けによって生じる現象は、「著しい性能低下」から「場合によっては性能向上」に変更された。もの凄い変わり身である。

 もうひとつ挙げると、再販された頃から新たな謳い文句として挙げられた「ロングランに強い」というキャッチフレーズだ。曰く「フィンの隙間に気流が通過しない為 ホコリや粉塵が目詰まりしにくい」との事だ。確かにCPUクーラーにホコリが詰まって性能が低下しにくいというのは利点であるし、手入れの手間が省けるのは良い事だ。CPUクーラーだけロングランに強くなっても、他のものに付着したホコリを落とさなければならない点を考えれば、結局手入れは必要である。それなら、ケースの吸気側ファンにフィルターを付け、ケース無いを陽圧にする方がはるかに効率的だ。多少エアフローが乱れても、『T-Shooter』レベルまで冷却性能が落ちる事は無いだろう。

 最初に挙げたファンの取り付け方向にしても、今回検証した「ローダウン化」にしてもそうなのだが、メーカーは本当に検証を重ねてこの製品を作ったのだろうか? 机上の空論をただ形にしただけでは無いのだろうか? そうで無いなら、なぜ高効率を謳う製品がファンの取り付け方向や「ローダウン化」で性能が向上するのか。

 個人的には、ユーザー自身がカスタマイズ出来る要素があるというのは、自作PC市場向けの製品としてはプラスになるポイントだと思う。しかし、公式サイトでカスタマイズ方法として紹介されている内容を、私はカスタマイズだとは思わない。なぜなら、こんなものは最初からメーカーがやっておけば良いだけだからだ。

 より効率的に冷却する方法があるのに、それを施していない製品を高効率と謳い、あまつさえそれをカスタマイズ方法として紹介する。もしかしたら、製品化した時点では検証不足で気が付いていなかったのかもしれないが、高効率を謳った製品にこんな程度のカスタマイズを施すだけで性能が向上することを堂々と公開するなど、まともに製品を作り込んでいないことをPRしているだけではないのだろうか。


 もともと大型の冷却装置の開発を行っていたという、開発元のベストサーマルにとってみれば、『T-Shooter』は単なる技術デモ的な製品だったのかもしれない。しかし、この程度の性能しか出せないようでは技術デモとしても本末転倒であるし、CPUクーラーすらまともに作れない会社に数十万・数百万の大型設備を設計を任せようと思う人間がいるだろうか。

おそらく、製品を投入する市場の事を良く調査も理解もせず、自分たちの理論だけで製品を作り上げた結果が『T-Shooter』なのだろう。こんなテキトーなものづくりに同情する余地はないが、これが希少な純国産の製品であるという事実が実に悲しい。




◆ まとめ 〜 現代のCPUクーラーとしては製品未満 〜

 『T-Shooter』は、現代のCPUクーラー市場において、静音志向のユーザーも冷却能力志向のユーザーも満足させることの出来ないだろう。以前の検証で比較しているが、コンパクトでも無い癖に『Pentium Dual-Core E5200』のリテールクーラーにすら及ばない性能のCPUクーラーを、定価の6,980円を払って入手する価値など皆無と言っていい。正直、こんな評価用の試作品みたいなレベルの物を製品として販売していること自体がおかしい気もする。

 現在ソフマップでは、特価の5,280円で販売しているが、この値段では評価の変えようがない。ちなみに、ソフマップ的には"おすすめ"らしいのだが、一体この製品のどこがおすすめなのだろう? ネタ的に?「店のおすすめは早く処分したい品」という事を理解させるため?

店頭で直接おすすめと言われるとは思わないが、どういう意図で"おすすめ"なのか聞いてみたいところだ。




最安値情報(coneco.net) & Shop Link
ベストサーマル『T-Shooter』 ⇒ [ソフマップ]