大変遅くなってしまい申し訳ありません。Thermalright製LGA 775専用CPUクーラー『AXP-140』のレビューの第二弾です。第二回の今回は、CPUクーラーの最も重要な要素「冷却性能」の検証となっています。

AXP-140


◆ 比較対照には「風神鍛」と「ANDY」を用意

 今回は『AXP-140』の冷却能力を検証するにあたり、比較対照としてCooler Masterの『風神鍛』と、サイズの『ANDY SAMURAI MASTER』を用意しました。

Cooler Masterの『風神鍛』に関しては、超ロープロファイル仕様を謳う『AXP-140』と高さがほぼ同じなので、高さが低いCPUクーラー同士の性能比較として参考にして頂けるかと思います。反対に、サイズの『ANDY SAMURAI MASTER』はかなり背が高いので、同じCPUクーラーでも階級が違う印象がありますが、コストパフォーマンスが非常に優れている製品ですので、純粋な冷却性能の指標としてご覧いただければ幸いです。

 参考までに比較対照用の2製品と『AXP-140』の高さ比較写真を掲載しておきます。上側が『風神鍛』、下側が『ANDY SAMURAI MASTER』との比較となっています。

「風神たん」(右)との比較

「ANDYさん」(右)との比較





◆ 検証条件・検証環境

 冷却性能については、温度や電圧をリアルタイム表示するモニタリングソフト「HWMonitor 1.13」の「CPU」と「System」の温度と、サイズから発売されているデジタル温度計『どこでも温度計2』をチップセット(のヒートシンク)とメモリに取り付けて実測した温度を比較する事で検証を行う事にしました。

温度計取り付け位置

温度計位置(チップセット)

温度計位置(メモリ)


 検証条件は、「StressPrime 2004」を使ってCPUをフルロード状態にした上で20分間負荷をかけ続けた際の温度を「load」とし、その後10分間負荷を掛けなかった時の温度を「idle」としました。

CPUにはTDP 130W『Core 2 Extreme QX9650』(EIST・C1E有効)を利用し、検証は室温24.0±0.5℃の環境下で、バラック組み状態のテストPCを利用して行いました。テスト環境の詳細については以下の表のようになっています。

検証環境

測定条件


 今回比較を行う製品は全て12cm角ファンに対応しているので、今回の冷却性能検証には低速な『S-FLEX 800rpm』、中速の『KAZE-JYUNI 1200rpm』、高速回転の38mm厚モデル『ULTRA KAZE 3000rpm』の計3製品のケースファンを用意して、それぞれを取り付けた際の冷却性能を比較しています。

なお、『ANDY SAMURAI MASTER』に関しては標準のファン固定用クリップが38mm厚のファンに対応しておらず、『風神鍛』にも38mm厚ファンを固定する為のビスが標準添付されていません。『風神鍛』は長めのビスを用意するかリブなしタイプなら取り付け可能で、ANDYはクリップを曲げながらヒートパイプに引っかければ一応取り付けられない事もありませんが、正式にはサポートされていませんのでご注意下さい。(『AXP-140』も25mm厚専用となっていますが、無理なく取り付け可能でした。)

ケースファンのスペック





◆ 超静音ファン『S-FLEX 800rpm』搭載時の冷却性能

 『S-FLEX』の800rpmモデルは、ソニー純正の閉型流体軸受けベアリング『S・FDB』の採用により、僅か8.4dBAという超静音動作と、150,000時間(MTBF)という長寿命を実現しているのが魅力の製品です。反面、超静音動作と引き換えに風量は33.5CFMとなっており、冷却能力に関しては12cm角ファンの中でもかなり低い位置にある製品です。

静音PCを作るのには非常に魅力的ですが、CPUクーラーに取り付けるにはちょっと温度が気になる…。そんな『S-FLEX 800rpm』を搭載した際の冷却性能比較結果から紹介します。

S-FLEX搭載時

 まずCPUの温度から見ていくと、最も低い温度に抑えられていたのは『ANDY SAMURAI MASTER』の55℃で、その後に58℃の『AXP-140』、61℃の『風神鍛』と続いています。『ANDY SAMURAI MASTER』には3℃差をつけられていますが、ほぼ同じ高さの『風神鍛』には反対に3℃の差をつけており、低速ファンとの組み合わせでも、CPUの冷却能力に関してはまずまず良さそうな印象を受けます。

 まずまず良さそうな印象を受けるCPU冷却能力とは対照的に、デジタル温度計を使って実測したチップセットとメモリのヒートシンク温度に関しては3製品の中では比較的高いという結果になっています。『AXP-140』の比較対象として用意した2製品は、『ANDY SAMURAI MASTER』がメモリ冷却能力に優れ、『風神鍛』はチップセット冷却能力に優れているのですが、この結果を見る限りだと『AXP-140』の場合はどちらもダメといった感じです。

 『AXP-140』はクーラー自体の高さが低いため、搭載しているファンとチップセット・メモリとの距離はかなり近いのですが、搭載しているファンが風圧の乏しい『S-FLEX 800rpm』なので、ビッシリ放熱フィンが並んでいる『AXP-140』の場合、風の抜けがあまり良くないためにチップセット・メモリの冷却性能が低いのかもしれません。

『AXP-140』と風量・風圧の低いファンを組み合わせる場合、チップセットやメモリの冷却能力には差ほど期待しない方が良さそうですね。




◆ ANDYの標準ファン『KAZE-JYUNI 1200rpm』搭載時の冷却性能

 サイズの『KAZE-JYUNI』の1200rpmモデルは、単体製品として販売されているケースファンでもありますが、実は『ANDY SAMURAI MASTER』(現在販売中のロット)に標準で添付されているファンでもあります。ですので、『KAZE-JYUNI 1200rpm』搭載時の『ANDY SAMURAI MASTER』は標準仕様での性能と考えて頂ければよいかと思います。

それでは、スペック上では『S-FLEX 800rpm』の約2倍の風量を実現している『KAZE-JYUNI 1200rpm』搭載時の冷却性能比較結果を紹介します。

KAZE-JYUNI搭載時

 搭載ファンの風量が2倍になったからと言って、冷却性能も2倍で温度が半分になるという訳ではありませんが、全体的な傾向は『S-FLEX 800rpm』と似た形になっています。ポイントを挙げるとすれば、『S-FLEX 800rpm』搭載時は3℃の差があった『ANDY SAMURAI MASTER』と『AXP-140』のCPU温度がなくなった事、そして、チップセットヒートシンクの冷却能力で『AXP-140』が『ANDY SAMURAI MASTER』を逆転した事などが挙げられます。

『AXP-140』のチップセットやメモリなど、CPU周辺パーツの冷却能力が低いという特徴は相変わらずですが、24.0dBAとまだ割と静かなファンを組み合わせることで、大型CPUクーラーの『ANDY SAMURAI MASTER』と同等のCPU冷却性能を発揮出来るのは魅力的ではありますね。




◆ 常用PCには組み込まない?『ULTRA KAZE 3000rpm』搭載時の冷却性能

 サイズの『ULTRA KAZE 3000rpm』は、これまで紹介した『S-FLEX 800rpm』や『KAZE-JYUNI 1200rpm』より13mm厚い38mm厚の12cm角ファンで、3000rpmという高速回転と38mm厚の組み合わせにより133.60CFMという大風量を実現しています。もちろんその代償として、45.90dBAという物凄い動作音となっています。

比較検証の最後は、常用PCのCPUクーラーに取り付けるファンとしてはお勧め出来ない『ULTRA KAZE 3000rpm』搭載時の冷却性能比較結果です。

ULTRA KAZE搭載時

 スペック上では『KAZE-JYUNI 1200rpm』の約2倍という大風量ファンを組み合わせた事で、CPUクーラーの温度に関してはついに『AXP-140』が『ANDY SAMURAI MASTER』よりも低くなっています。高さが同程度の『風神鍛』に対しては5℃の差を付けており、背の低いCPUクーラーとしてはかなり高い冷却能力を持っていると言えますね。

差がなくなっているとは言ったものの、チップセット・メモリの実測温度は3製品中高めとなっています。特にメモリの冷却性能に関しては、高い位置から広範囲に風を当てる事のできる『ANDY SAMURAI MASTER』が一歩リードしており、『風神鍛』や『AXP-140』のように背の低いトップフロータイプのCPUクーラーは、メモリ冷却性能が弱点と言えそうです。




◆ まとめ 〜 CPU冷却性能は優秀、問題はコスト? 〜

 検証結果を通してみると、『AXP-140』はCPU冷却能力に関しては『ANDY SAMURAI MASTER』並みですが、チップセットやメモリなど周辺パーツの冷却が苦手な製品のようですね。トップフロー型で周辺パーツの冷却能力が弱点というのはちょっと気になりますが、背の低いCPUクーラーとしては十分高いCPU冷却性能はなかなか魅力的だと思います。

問題は6,000〜7,000円という価格を許容出来るかという点になります。ケース内のスペース的に取り付けられるのであれば、総合的な冷却能力で『AXP-140』を上回っていながら3,000〜4,000円程度で購入可能な『ANDY SAMURAI MASTER』が良いですし、高さ的にほぼ同等の『風神鍛』も4,500〜5,500円程度で購入できるので、『AXP-140』のコストパフォーマンスはあまり高くない印象があります。

 もっとも、今回の検証は12cm角ファンを取り付けた際の性能を比較となっているので、『AXP-140』の魅力である「14cm角ファンが取り付け可能」という点に関しては検証出来ていません。比較対照の『風神鍛』も「2基の9cm角ファンを搭載可能」という特徴を生かせていませんので、あくまでも12cm角ファンを搭載した際の性能比較としてご覧いただければ幸いです。




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